【書評】「遥かなるケンブリッジ」藤原正彦
著者 藤原正彦さんは数学の研究者であり、物書きでも有名な方だそうで、ぼくの尊敬して止まない数学教授からオススメされ読んでみることにしました。
無学なぼくは存じ上げませんでしたが、著者はかの有名な新田次郎さんの息子さん。だからかどうかは知りませんが、とても文章はわかりやすくスラスラ読めます。ユーモアもあっておもしろい。各章でちゃんとオチまであるような書き方です。
内容としては、著者 藤原先生のケンブリッジ大学(イギリス)への滞在中の波瀾万丈な出来事を綴っていく。全く悪く言うつもりはありませんが、小説というよりはエッセイのような印象。内容は大きく見れば繋がっているが、脈略はそこまでない。淡々と藤原先生の身の周りに起こった出来事、その時の気持ちを長い生活の中の一部だけ紹介しているような物語。
藤原先生を尊敬している人はもちろん、数学の研究に興味のある人も読んでいて楽しいだろうし、ぼくは全くわからないが、ものすごい数学の大家たちがズラズラっと名を連ねて出てくるらしい。ノーベル賞、フィールズ賞などの受賞者など…興味のある人が見ればとてつもなくワクワクすることだと思います。
数々の出来事を通して語られるイギリスという国
英語が堪能な藤原先生とそうでない奥さん、加えて息子さんたち3人を抱えてイギリスで暮らす日々。訪英一日目のイギリスの見え方、これまでの考え、過ごしていく中で出くわす事件を通して見えてくるイギリス人という性質を語る部分も多い。
藤原先生がとても愛国心が強くて反英感情笑が出ていてとてもユーモラス。息子が学校でいじめられているとわかり、奥様がかなり心苦しく感じられているときもユーモアは忘れない。文章で明るく語っているだけかも知れないがおもしろおかしく読めました。
ぼくは数学者は数学のことだけを考えているのだと思っていたが大違い。国家のあり方、国民性、人種など、幅広い知見があり、その中で思うことを語っていた。とても頭のいい先生だと思いました笑。当たり前ですが…
かなり辛辣な表現もされるお方です笑。「イギリス野郎に侍が負けられるか…!」といった根性が垣間見えました。少なくとも息子にはそう説いていた笑。そんな血気盛んな数学者。
イギリスに興味を持つ人に
イギリスが好きだ、いつか行きたい、と思っている人にもオススメできる。イギリス人がどんな国民性で、ジェントルマンとは何か、どんな考え方なのか、あまり良い印象は残さないかも知れないが、紳士とは素晴らしいものだと思いました。25年ほど前の著書だから少し情報は古いかも知れないし、そもそもケンブリッジの数学界を中心にした話だから「イギリス人はこう!」とは言い切れないとは思いますが。
数学の研究とはなんたるものか、イギリスとは、日本とは、数学者からみた考え方が垣間見える一冊でした。